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2015.12/19~25 聖なるひとり旅 第十四章 くつろぎ(後編)

 特急北斗6号の自由席は、予想に反して空席が目立った。もちろん目立っただけであって、客が少ないのではない。通勤時間帯は過ぎているから、少し混雑がましなのだろう。私は進行方向右側、有珠山昭和新山が見える向きに座った。

 次の目的地は長万部である。前回駅のホームで長万部温泉の看板を見つけて以来、行ってみたいとずっと思っていたのだ。今回は乗りつぶしに余裕を持たせてあるから、最終日にたっぷりと観光ができる。最後の観光要素として選んだのが長万部だった。

 特急北斗号・スーパー北斗号にはもう飽きるほど乗った。何度乗ったか数えるだけで大変だ。室蘭本線のこの区間ももうすっかり飽きてしまったが、それでも車窓は何度見てもよい。ただ心残りなのは、この区間では普通列車に乗っていないことである。普通列車と特急列車では旅の趣がまるで違う。同じ区間のはずなのに、全く違う路線に乗っているかのような錯覚を覚えることすらある。だからこそ、いずれ長万部から東室蘭まで、そして登別から苫小牧までは普通列車に乗りに来たい。

 室蘭付近は全く雪がないのだが、長万部へ向かうにつれて少し雪が見えるようになってきた。トンネル手前の日が当たらない場所は特に目立った。ちょうどその頃、列車は例の小幌駅を通過した。ビデオカメラを構えていた私は、無事その収録に成功した。

 10:59長万部駅に到着した。国鉄の雰囲気が色濃く残る駅設備は微塵も変わっていない。以前はかにめし弁当を買いに行くだけだったが、今回は念願の長万部温泉に入りに行く。方角を確かめ、私は列車で今来た道を引き返した。長万部温泉街は駅の北東にあるのだ。

 一軒家が並ぶ路地をしばらく歩いていると、「温泉近道」と大きな文字で書かれた看板を見つけた。その看板が示すとおりに左を向くと、そこには細くて錆び付いていて、今にも崩れ落ちそうな白い歩道橋がある。階段を上り詰めると、なかなかの眺めである。左手には遠くに長万部駅の広大な敷地とたくさんの線路が、右手には函館本線と室蘭本線の分岐部が見える。実はこの跨線橋の存在自体は知っていて、かねてから「あの白い跨線橋は何だろう、JR職員専用だろうか」と思っていたがとんでもない。調べてみればただの歩道橋だった。しかも、駅の唯一の出口側と、線路を挟んでその反対側にある長万部温泉街を短絡するという機能を持っている。
温泉近道

歩道橋より長万部駅

 跨線橋を渡ると、そこは確かに温泉宿が軒を連ねる温泉街だった。私は調べておいた日帰り入浴可能な施設に入ってみた。

 人がいない。職員氏が出てくるのを待っていると、なんと今は清掃中で、日帰り入浴は時間外だという。そうか、確かに今は朝の十一時である。常識的に言って、まだ風呂に入る時間ではない。入浴可能時間くらい調べてくればよかった。

 親切にも、「温泉ホテルなら今でも開いているかも知れない」と教えてくれた。温泉ホテルというのは、温泉街の中でも一番有名な施設で、宿泊客への料理が非常に豪華で美味であると評判のホテルだ。私は少し歩いて、その温泉ホテルを探し当てた。

 中に入ってみると、予想よりも随分と小さい玄関であった。職員氏が現れたので日帰り入浴を所望すると、ありがたいことにこの時間でも受け付けてくれた。

 脱衣所に行ってみると、他の客はいないようだった。当たり前だ。浴室を独り占めできる格好になった。浴室に入ってみると、二つの小さな湯船が並んでいる。説明を見てみると、片方は39~41℃のぬるめ設定、もう一方は約43℃の熱めで両方とも源泉100%だという。熱い方の湯がそのまま少しずつぬるめ湯船に流れ込んでいて、湯船を移動する間に適温まで冷めるようになっている。

 だがぬるめでもそれなりに熱い。私は体を洗ってから少しずつ慣らして湯船に浸かった。ここの泉質は高張性弱塩基性の塩化物泉であり、非常に塩辛い。自らの汗を舐めているのか温泉を舐めているのかわからないほどだ。

 浴室を一人で貸し切りながら、脱衣所に一旦戻ってで体を冷ましつつ水分補給をし、また湯に浸かっては冷まし、を繰り返す。最近定着しつつある、私の温泉地での入浴の仕方である。入浴料金は何時間いても変わらないから、長くいるほど元を取れてよい。

 一時間ほどして、とうとう風呂から上がった。いい湯だった。衣類を着直して脱衣所を出た私は、冷蔵庫を探す。見つけた冷蔵庫には、ちゃんとコーヒー牛乳があった。受付で代金を支払い、靴を履いてホテルを出た。そして冬空の下、私はコーヒー牛乳を開けた。ぐっと口に流し込んだとき、私は
違うな
と瞬時に感じた。以前、K1氏とともに函館の銭湯で飲んだコーヒー牛乳の味が忘れられないと述べた。その思い出を再現するため、コーヒー牛乳を買って飲んでみたのだが、味や舌触りが全く駄目だった。あの時の味は確かによかったはずだ。美化されすぎているとは思えないのだが・・・

 温泉街をあとに、私は再び例の跨線橋を渡った。階段を登る途中で、キャリーバッグを持った一人の若い女性とすれ違った。女ひとり旅だろうか。こんな時間に温泉街に来るとは、どういう予定なのだろう。日頃女性には興味がない私だが、ひとり旅の女性には、一人の人間として関心がある。

 駅前の道路に戻り、私は以前来たかにめし弁当直売所の隣にある、「かなや」の食事処に入った。以前のかにめし弁当はすっかり冷めてしまっていて、あまり美味ではなかったから、今回は店で出来立てを賞味し、もう一度味の評価をしようと思っていた。

 かにめしの定食を注文すると、弁当とほぼ同量かあるいは少し多めのかにめしと、かにサラダや茶碗蒸しまでついてきてかにめし弁当と同額だから、やはり駅弁は損である。出来たての温かいうちはかにの香りが立って、なかなかの美味であった。ということで、二度目の長万部では観光を満喫し、すっかり心が満たされた。次は温泉ホテルに泊まってみたいと思うが、その機会がいつ来るかは、乗りつぶしの進展次第である。

<<次回に続く>>
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プロフィール

こだま827号

Author:こだま827号
職業:大學生 醫學部醫學科
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好きな作家:宮脇俊三、笹沢左保、上野正彦
愛読書:JTB時刻表

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