FC2ブログ

2015.12/19~25 聖なるひとり旅 第十五章 再現(前編)

第十五章 再現
 次の列車は13:28に出発する普通列車函館行きである。店を出たのが13:07頃だから少し遅いくらいだった。私は駅に戻るとすぐに改札へ入り、跨線橋を早歩きで渡って三番、四番乗り場を有するホームへ降りた。すると、両方の乗り場にキハ40系が止まっていて一瞬どちらか迷った。

 四番乗り場のキハ40系の側面サボには「函館←→長万部」と書かれていて、両矢印の下には小さく「砂原経由」と書いてある。砂原とは、鹿部回りの途中にある渡島砂原駅のことで、一般にこの支線は鹿部回りではなく砂原回りと呼ばれる。駅の規模で見ると鹿部の方が主要で、JTB時刻表でも鹿部は太字で砂原は細字だから、私は鹿部の方により敬意を表して鹿部回りと呼んでいる。この路線の前身である渡島海岸鉄道が、森駅から砂原駅(現在の渡島砂原駅とは別物)まで線路を敷いていて、その後国鉄が買収した上で大沼側からも路線をつないだから、砂原を基準に路線を考えていたのだろう。それが砂原回りと称する所以かと考えている。

 私は函館行きに乗り込み、無事進行方向左側、内浦湾側のボックス席を陣取った。長万部発の函館方面行き普通列車は非常に少ないから、座席を確保できるか心配だったのだが、一件落着だ。
鹿部回り函館行き長万部

 ホームに出てキハ40系の並びを撮る。長万部駅が国鉄の趣を残しているせいで、まるで平成の世にいないかのような気になってしまう。キハ40系の塗装がたらこ色だったらもっと昭和風でよかったのに、と思う。

 13:28、列車はエンジンを震わせて定刻に出発した。一両編成の車内はそれなりの乗客数である。だがもちろん、採算が取れるとは思えない。

 ここで、何故普通列車なのかと思われただろう。長万部~函館間のような長距離なら、特急を利用するのが北海道の定石である。だが私が前回述べたことを思い出して欲しい。同じ路線でも、特急で乗るのと普通で乗るのでは、まるで別物なのだ。これまでこの区間は、大沼公園~函館間という短距離しか普通に乗っていない。それにもう一つ、普通列車でなければならない理由がある。

 それが鹿部回りだ。前回乗った青森行きの急行はまなす号は、鹿部を経由していた。だから乗ったことになるわけだが、車窓が見られていないのでは乗っていないのと同然である。今回の旅程を作成するうえで、長万部~函館間を直通し、かつ鹿部回りの普通列車を組み込むという作業は、難関であった。

 長万部の二つ隣の駅は国縫駅という。アイヌ語の「クンネ・ナイ」=「黒い・川」に由来し、「くんぬい」と読む難読駅だ。この駅はかつて存在した瀬棚線の起点駅で、宮脇氏が北海道最後の路線としてここへ来た行は、非常に印象的だ。ここには一度降りてみたいと思っている。

 国縫の次の北豊津を過ぎた頃、私はカメラの準備を万全にした。次の駅は鷲ノ巣駅、冒頭で紹介した、2016年度ダイヤ改正で廃止になる駅の一つである。せっかくの機会だから、駅名標や駅舎を撮影しておこうと思ったのだ。まずは手始めに、駅に着く前から客室先端にある運賃表示に書かれた「鷲ノ巣」の文字を撮った。ワンマン列車だから、次に止まる駅と対応する運賃が機械で表示されるのだ。

 鷲ノ巣駅に着いた。列車が停まった位置から見た駅舎は、ただの小さな廃屋か便所にしか見えない。駅名標は走り去る車窓から撮った。とりあえずこれで、生前の鷲ノ巣駅を記録することができた。ちなみに鷲ノ巣駅は、北海道最西端の駅である。廃止後は、八雲駅が最西端になる。
鷲ノ巣駅名標

 今日も穏やかな内浦湾を左手に見つつ渡島半島頸部を徐々に南下し、体部に入って最初の主要駅、八雲駅で乗客がどっと増えた。八雲町は小さな町であるが、特急が止まる代表駅をやはり侮ってはいけなかった。ただ調べてみると、八雲駅の一日の利用者は二百人強らしい。全特急停車駅としては、物足りない数字だ。

 八雲を出ても、まだ左手にはずっと内浦湾がある。途中で江差線のように、湾との間に民家を挟むこともあり、若干の変化を伴う。そしてそのうち、遠景で駒ケ岳が再びその威光を放ち始める。距離のせいで少しぼやけて見えるのが、逆に神秘的である。

 さて、分岐駅の森駅に到着した。この駅は太平洋岸すれすれの位置にあって、雪が積もっていると非常に美しいことは、以前述べた。ここからついに鹿部回りに入る。実質これが、今回北海道における最後の未乗路線だ。

 森駅を出て、少し海岸に沿ったかと思うと、函館本線の二つの線路は分かれてすぐに両方とも内陸を目指す。渡島海岸鉄道に出自を持つ鹿部回りですら、木々の間に入ってしまった。森駅の隣の東森駅は、実に奇怪な駅舎を有している。屋根が地面すれすれまで垂れ下がっていて、駅舎自体が三角形に見える。恐らく雪の重さで駅舎が倒壊しないようにするためだろうが、もっと雪が厳しい石北本線でもこんな形状は見かけなかった。北見駅は確かに三角構造があるが、駅舎の一部でしかないから、雪害対策ではないだろう。
東森駅舎

 茶色い枝だけになってしまった心細い並木が延々続く。人気がないせいで、この上なく殺風景だ。ただ、地図を見てみると、草木に覆われているのは線路周囲であって、線路から少し離れたところには自動車道があり、民家や漁港や工場やらが並んでいる。鹿部周りの駅を片っ端から調べてみたが、いずれも一日利用者数は良くて二桁の無人駅である。そのせいで沿線は寂しい農村地帯かと思っていたが、案外そうでもないようだ。結局のところ、本数が少ない鉄道など使わず、皆自動車で出かけてしまうのだろう。

 海が見えることなど一度もないが、車窓右手に駒ケ岳が見えてくる。大沼公園回りは駒ケ岳の西側を行くが、鹿部回りはその東側を、海岸に綺麗に沿う形で迂回する。ちょうどあの向こうに、これまで幾度となく通ってきた、大沼公園回りの函館本線があるのだと思うと、感慨深い。こうして、駒ケ岳をあらゆる角度から望むことができた。

<<後編に続く>>
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

プロフィール

こだま827号

Author:こだま827号
職業:大學生 醫學部醫學科
趣味:鉄道旅行、旅行記執筆、音楽、写真撮影、動画制作、醫學研究
好きな作家:宮脇俊三、笹沢左保、上野正彦
愛読書:JTB時刻表

カウンター

検索フォーム

ブロとも申請フォーム