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2016.3/21~25 さらば時刻表 第一章 光と闇

さらば時刻表     最終更新日 2016.9/9

第一章 光と闇
 相変わらずの混雑であった。名古屋駅JR全線きっぷうりばはこれで三回目だが、三回とも長蛇の列で待たされた。青春18きっぷで神戸を出て、関西本線の八田駅まで行ってから名古屋市営地下鉄の末端二区間に乗り、名古屋駅に戻ってきた今の時刻は十一時を過ぎた頃である。

 かなりの長い列だが、案外前に進んでいく。十分ほど待っただろうか、私は窓口に通された。若い女性の窓口氏であった。
 私はすぐさま北陸観光フリーきっぷを求めた。それに呼応して、窓口氏は素早い指さばきでタッチパネルを操り、きっぷを用意する。今回の窓口氏は若いが研修中ではないから、案外すぐに片付くかと思った矢先だった。
「少々お待ちください」
と氏は窓口を離れ、きっぷの効力を確認しに扉の奥へと消えていった。またか、と思いながら氏の帰りを待つ。これでは前回の研修中の窓口氏と同じではないか。

 北陸観光フリーきっぷというのは、JR東海が販売する、その名の通り北陸観光旅行向けのお得なきっぷである。このきっぷについては以前(旅行記『国鉄色に命を託した』)紹介しているから、そちらを見られたい。

 私が氏にした注文というのは、翌日の自由周遊区間への往路で高山本線の特急ひだ号を使うのだが、まずは高山行きの1号の指定席、そしてその後富山行きの7号の指定席を取ってくれ、ということである。

 こういうきっぷの場合、片道一回しか指定席を使えない場合があるが、このきっぷでは下呂高山飛騨古川の三駅に限り途中下車ができ、しかもその後また自由周遊区間まで特急に乗る場合、そちらでも指定席を使える。私はこのきっぷについて十分に下調べしてきたから、それを把握している。しかし若い窓口氏がそれを記憶していなかったのだ。
 戻ってきた氏は、
「すみません、確認したところお取りできます」
と言って、特急ひだ7号の高山から富山までの指定券を出力した。仕事についている人が何もかも完璧であるとは限らないから、別に氏を責めようとは思わない。きっぷの効力を把握しきれていないということは、あまり使う客がいないのだろうか。

 今回の旅の生命線を購入してから、私は青春18きっぷでJRのホームへあがり、定番のきしめんを食した。そしてホームを降り、全く別の改札口へと足を速めた。このように無料の入場券としても使えるのが、青春18きっぷの強みの一つでもある。こんなことを、『国鉄色に命を託した』でも書いた気がする。

 私が向かった改札は、名古屋臨海高速鉄道西名古屋線、通称あおなみ線のものである。旅客案内ではもっぱらあおなみ線の名称が用いられ、時刻表でもあおなみ線としか記載されないから、正式名称は旅を終えて初めて知った。

 西名古屋線は、名古屋駅から名古屋港名古屋地区の金城ふ頭駅を結ぶ全長15.2kmの路線で、全線複線電化である。私鉄ではなく、名古屋市を主要株主とする第三セクター鉄道だ。鉄道空白地帯と呼ばれた金城埠頭に鉄道を通すべく、2004年に開業した新しい路線である。あおなみ線という愛称は、「青」と名古屋の「な」と「港」の「み」を合わせたものだという。

 ホームに上がって電車の中を見ると、昼間だというのに案外客が多い。このホームは、他の名古屋駅の高架・地上ホームの中で、新幹線のホームと最も近い位置にある。だから新幹線がやってくると、間近にそれを見ることができる。私が電車に乗り込んですぐ、東京行きのN700A系電車がやってきた。

 名古屋駅を出て私が驚いたのは、これがれっきとした鉄道であるということだ。最近第三セクターのこうした公共交通機関は、新交通システムという鉄道ともモノレールともつかない、奇妙な輸送形態であることが多い。あおなみ線もそうなのだろうと勝手に思っていたから、大変失礼した。

 電車は駅を出ると右に曲がり、関西本線、近鉄名古屋線、そしてJR貨物線と並走する。先ほど八田駅まで乗った時も、この並走区間は近鉄や車両基地が見られて面白いと思った。そしてその八田駅のすぐ手前で大きく左に曲がり、関西本線と近鉄名古屋線に別れを告げた。

 しかし、すぐ左にはまだJR貨物線がぴったりと寄り添っている。これはどうしたことかと思ったが、後で調べてその事情がわかった。

 名古屋臨海高速鉄道という会社ができる以前は、この西名古屋線は通称西臨港貨物線という貨物専用路線であったのだが、JR東海がこの路線を第三セクター名古屋臨海高速鉄道に譲渡し、旅客営業を始まった。これが今のあおなみ線である。つまり、もともとここは純粋な貨物線だったということになる。そして今でも、JR貨物がその線路を借りて貨物運輸を行っている。道理で貨物線と長い間並走していたわけだ。

 「通称」と断るからにはもちろん正式名称があって、ここは正式には東海道本線である。鉄道の路線名というのは、何も旅客営業路線にしかついていないわけではない。ある路線は旅客営業線と貨物線から成っている、ということも多いのだ。しかし貨物線についてはJTB時刻表に記載されないから、私の知識が及ぶところではない。

 その並走区間は、途中の中島駅までである。もっとも線路が中島駅のすぐ隣まで伸びているだけであって、貨物の終着駅名古屋貨物ターミナル駅は、もう少し手前にある。

 全線高架であるから、モノレールに乗っているような気分になる。臨港線というのはどこも似たような車窓で、地元のポートライナーや六甲ライナーと似ているな、という感想を抱いた。

 終点金城ふ頭駅の手前で海を跨ぐ。金城埠頭そのものが人工島に存在するのである。そしてそれとほぼ同時に、前方に巨大な橋を見た。これは伊勢湾岸自動車道のものである。人工物ではあるが、白い橋と太平洋の紺碧は好対照であった。

 電車が橋を渡り終えると、すぐ左下に見慣れた色の電車が見える。今でも関西圏で走っている、国鉄色の117系電車である。その背後は巨大な平べったい構造物で、これがこの日唯一の観光場所である。

 金城ふ頭駅に降りて、その目当ての場所に向かう。もはや説明不要のリニア・鉄道館である。まさに鉄道ファンの聖地と言えるだろう。同様の博物館には、京都鉄道博物館大宮の鉄道博物館がある。京都のものは、かつて大阪の弁天町にあった交通科学博物館の移設し、梅小路蒸気機関車館と合体しただけと言っても過言ではないから、恐らく行かない。大宮のものは、いずれ暇ができたら行ってみたい。

 と、こんな具合に私の鉄道博物館への情熱は、概して大したものではない。折角行っても、鉄道ジオラマなど見せられるのは苦痛でしかないし、展示物を一つ一つ詳しく見だしたらきりがない。だが、このリニア・鉄道館だけは少々特別であった。

 展示物について詳しく書き出すと、これから行ってみたいという人にとって「ネタバレ」になってしまうから、あえて書かない。ただ一つだけここに記録として残しておきたいことがある。

 入場料を払い、最初のお出迎え車両展示を過ぎると、リニア・鉄道館の中核部位に達する。ここには新幹線や往年の在来線の名車が展示されているわけだが、とりわけ注目したのは、新幹線700系電車である。

 JR東海ほど利益が大きいJRは他にない。だから車両更新も盛んで、JRで一番早く国鉄型気動車の運用を廃止したのもJR東海である。そして新幹線にもその魔の手は及ぶ。最新型のN700系を開発、量産し、しかもそれを更に改良してN700A系とやらにしているだけでなく、まだ新型新幹線の感が抜けきらない700系までをも廃車し始めた。

 私は700系新幹線が好きではないから、700系の廃車にさほど悲しみは抱いていないが、ここにいる700系だけは特別である。

 ここにいるのは700系C1編成の博多寄り先頭車である。C1編成はその名の通り、700系新幹線最初の編成だ。これはJR四国2000系気動車TSEと同じように、先行試作車として開発された後、営業運転につくようになった編成である。かつてはC0編成と呼ばれていた。ちなみに、この700系の隣には300系がいるのだが、これも同様の先行試作車J1編成の先頭車である。

 私はこのC1編成に乗ったことがある。今からすれば実に馬鹿馬鹿しいことをやったものだが、私が鉄道ファンとして活動を初めて一ヶ月半ほど経った頃のことだ。時刻表で興味深い運用を見つけ、わざわざ九州の小倉駅まで取材に行き、その帰りには、のぞみ154号という臨時を選んだ。これは当時定期運用が絶滅していた、700系の博多~東京間全区間走破ののぞみ号で、しかも選択停車駅の新山口、徳山、福山、姫路のいずれにも停まらないという、稀有な列車であった。

 こののぞみ154号に乗ったとき、私はこれがC1編成であることに気がついた。そして私は何気なく、博多寄り先頭車の自由席に座った。

 C1編成はその後廃車され、その博多寄り先頭車だけがこのリニア・鉄道館に保存されている。
700系C1編成

 ということで、私はC1編成の、しかもまさに自分が乗った車両に再会することを一番の目標として、ここにやってきた。約四年ぶりの再会だから、さすがに感慨深かった。他の展示も充実していたが、もっと音鉄向けの展示を増やしてくれたら、文句なしだ。あと、入館料が高い。そこをどうにかしてくれたら、再訪もあるだろう。

 あおなみ線で名古屋駅に戻り、いよいよこの日の最大の任務が始まる。私が嫌いで仕方ない地下鉄の乗りつぶしだ。しかも名古屋の地下鉄というのは、東京の地下鉄と違った厄介さがある。

 東京の地下鉄は、路線の数、距離ともに絶望的に多いが、他の地下鉄路線や私鉄各線と絶妙に路線網を形成している。そのおかげで、折り返しの手間が少なく、かつ効率よく乗りつぶせる傾向にある。しかし、名古屋の場合、環状路線がある上に盲腸線が多く、乗り継ぎ計画の作成は困難を極めた。名古屋の地下鉄は全部で六つの路線から構成される。当初私は、この六つ全てに一度でけりをつける気でいた。

 しかし、乗る順番を決めた後に、私は挫折した。順番通りインターネットの乗換案内で時刻と所要時間を検索していくと、所要時間がとんでもないことになった。二、三時間で終わるものではない。六、七時間の世界だ。これはさすがに耐えられない。困った私は、名古屋鉄道と密接に結びついている鶴舞線上飯田線を外し、残る四路線を今回一日で処理することにした。不幸中の幸いで、鶴舞線は他の路線と非常に相性が悪く、名鉄とまとめて乗るのが最も効率的である。

 そういうわけで四路線を一日で乗ったのだが、15:00過ぎに始めた乗りつぶしが終わった頃には、もう晩の19:00過ぎになっていた。その道中のことなど、全く書く気もしない。

<<次回へ続く>>
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こだま827号

Author:こだま827号
職業:大學生 醫學部醫學科
趣味:鉄道旅行、旅行記執筆、音楽、写真撮影、動画制作、醫學研究
好きな作家:宮脇俊三、笹沢左保、上野正彦
愛読書:JTB時刻表

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