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2018.7/31-8/2 人情繋ぐ夢の跡 第六章 真価

第六章 真価
夕張行き追分駅201807
追分駅を出ると、更に車窓が北海道らしさを帯びてきた。左側に牛の放牧が見えている。今は右側に座席をとっているから、カメラが遅れる。急いで左側に移動しようとしたが、もはや牛の姿は途絶えた。とはいえ、初めてこの目で放牧を見たのだから、大きな収穫である。明日ここに乗って引き返す時は、撮ってやろうと心に決めた。
石勝線車窓201807

踏切を渡る時、他の地方と違うな、と感じる。細い道路が木立に囲まれてつつと伸びていく様はどこでも見られるが、北海道は道路を包み込む勢いが違う。他の地方では、人間が自然を制圧し、切り開いている様な印象を受けるが、北海道では、完全に自然の力に圧倒され、人間の文化が自然に埋もれている

そんなことを考えていた矢先に、前のボックスに座っていた御婦人二人の会話が耳に入ってきた。鹿がいたと言うのだ。一人は鹿に気づき、もう一人は気づかなかったらしい。そして私も、カメラを操作していて気づかなかった。なるほど、やはり今は大自然に飲み込まれて走っているのだ。周りの木々を見ると、幹が白っぽくて細いのは白樺だろう。これは神戸の都会ではお目にかかれない。しかも目下には天然の蓮も生えている。

滝ノ上駅は、夕張炭鉱集落の始まりである。夕張線廃止後も残る駅だが、集落らしい集落は見えない。wikipediaにも、「滝ノ上の集落がある」との記載があるが、駅から少し離れているのだろう。何れにせよ、鉄道を使う客は皆無である。
滝ノ上駅名標201807

次の紅葉山、改め新夕張駅が、大きな拠点となる場所だ。一応追分駅と同じくらい特急は停まるが、特急停車駅に似つかわしいほど駅前は栄えていない。昔は紅葉山の炭鉱集落があったはずなのだが。夕張線はここから分岐するが、今乗っているのは夕張行きだから、乗り換える必要はない。

今でこそ夕張線は「石勝線夕張支線」だが、歴史を辿れば夕張線石勝線の根幹を成している。元々追分〜夕張間に現夕張支線の原型である夕張線があって、紅葉山から登川までの「夕張線登川支線」があった。後の1981年、現在の石勝線新夕張〜新得間が開業すると、南千歳〜新得間が石勝線本線、夕張線はその支線、と立場が逆転したのだった。こういう経緯があるので、通称や愛称が嫌いな私であるが、夕張支線に限っては敬意を表して「夕張線」と呼んでいる。

新夕張駅で六分停車したので、駅名標と列車の写真を撮っておいた。ここで少し勿体ぶってから、いよいよ本命に入ろうというダイヤ設計である。偶然であろうが、にくい演出だ。
新夕張駅名標201807

薄暮の中、夕張行きはゆっくりと新夕張駅を出て行った。案外長く石勝線本線と併走してから、左に大きく旋回して炭鉱線に入っていく。本線は夕張川を高規格な橋梁で堂々と渡ってトンネルに消えた。

薄暗い上、明日の昼間にまたここを通るので、車窓を真剣には眺めなかった。ただ閑散とした沼ノ沢駅に列車が停まって発進し、次の南清水沢駅にも同様に停まるのを見守るだけである。そして私は、南清水沢駅で下車した。今のが今日最終の夕張行きだから、もう先へは進めない。ではこれから千歳に戻るのか。否。
沼ノ沢駅201807
南清水沢駅201807

南清水沢には、夕張市唯一のビジネスホテルがあるのだ。私は元々清水沢駅近くの旅館に泊まるつもりだったが、二ヶ月前に電話をかけた時点で満室だった。無愛想な女将に「満室です」と言われたのが驚きだった。一ヶ月後の予約と勘違いしていないか確かめ、まさかの自体に呆気にとられているうちに電話を切られた。そして調べ直した挙句見つけたのが、この南清水沢駅附近のビジネスホテルだった。

インターネット予約は対応していない様なので、こちらにも電話をかけた。すると、二ヶ月後だとまだ早いので、来月かけ直して欲しいと返ってきた。清水沢の二の舞になりはしないか、と思って翌月恐る恐る電話をしてみると、無事空室があった。

ということで部屋を確保したビジネスホテルは、南清水沢駅から歩いて七、八分のところである。だがその前に、駅の様子を動画に収録しておいた。無論駅ノートの紹介や記入も忘れない。誰もいないこの時間は、駅の記録に最高の條件であった。

ホテルまでの道路に街灯などない。頼りになるのは、疎らに立ち並んだ店の明かりくらいしかない。車もあまり通らないから、徹底した無音空間だ。こういうのは田舎でないと味わえない。大学であろうと家であろうと、普段生活していて全く無音の時間というのは殆どない。

電話での口約束だけだったので少々不安だったが、ホテルはちゃんと私を出迎えてくれた。部屋に荷物を置き、さっき素通りしてきたセイコーマートで食事を買おう、と思って部屋を開けた時だった。

気の遠くなる様な熱気が、扉の狭い隙間から吹き込んできた。何事か、と電気をつけて部屋を見渡すと、あるべきはずのものが、ない。

そう、エアコンがないのだ。

えらいところに来たもんだ、と思ったがとりあえず窓を全開にしないと始まらぬ。そして改めて部屋を見ると、扇風機もない。そういえば隣の部屋の扉が若干開いて、扉留めがかかっていたのを思い出した。そうか、どこの部屋もエアコンがなくて灼熱地獄になっているのか。廊下の方が圧倒的に涼しいから、廊下の空気を入れない事には過ごせない。

北海道ではこういうことがままある様だ。夏でも涼しい北海道に、クーラーはいらない。なら寒い冬はストーブで凌げばいい。エアコンを取り付ける必要はないわけだ。しかし夏が涼しいと言ってもそれは本州と比較した時の相対的な評価であって、実際は昼間の気温が30°附近まで上昇する。
「窓を開ければ何とかなるのだから、それで我慢してくれ」
という意味なのだろう。「何とかなる」では客としては不便極まりないのだが。

とりあえず窓を全開にしてから荷物を置き、夕食を買いに行った。セイコーマートは食べ物が旨い事に定評があり、実際味もさることながら量もしっかりとあり、満足した。北海道のご当地コンビニとして愛されるのも頷ける。勢い余って買ったパン一つを翌朝に残し、質素な夕食を済ませた。
セイコーマート201807

保安上部屋の扉は閉めざるを得なかったが、窓を全開にして外界の「やや暖かい」空気を入れることで、眠りにはつけた。翌朝は夕張線列車から旅を始める。一本でも寝過ごせない。

<<次回に続く>>
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プロフィール

こだま827号

Author:こだま827号
職業:初期研修医
趣味:鉄道旅行、旅行記執筆、音楽、写真撮影、動画制作、醫學研究
好きな作家:宮脇俊三、笹沢左保、上野正彦
愛読書:JTB時刻表

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